コミュニケーション

  インターネットや携帯電話の普及により,メール,ブログ,掲示板など,コミュニケーション方法は非常に多様化しています.さらには,機械とのコミュニケーション(機械を使う)の機会も非常に多くなっています.しかし,その基本は,人間同士が直接会って行うコミュニケーションにあります.又,そうでなければなりません.そのような意味で,「コミュニケーション分野」は,情報学において最も重要な分野であるといってよいかもしれません.従って,コミュニケーションの本質について学ぶことは重要です.

  コミュニケーションを行うためには,相手の言語(自然言語)を理解できなくてはなりません.まず,最初に,機械とのコミュニケーション,つまり,コンピュータによる自然言語理解について考えてみます.自然言語理解は,言語学などの考え方に基づき,以下に示すような方法で行われます.ただし,常に図の左から右への順序で行われるわけではありません.なぜなら,以下に述べるように,各段階で様々な曖昧さが生じるからです.

  形態素解析,辞書引きは,文を単語に分割し,各単語の意味を調べることに相当します.しかし,仮名漢字変換の例からも分かりますように,単語に分割することでさえ,文全体の意味が分かっていないと正確に実行できません.各単語の意味についても同様です.

  構文解析によって,文の構造を明らかにするわけですが,ここにも曖昧さが生じます.たとえば,

That iron will make a bridge

のように簡単な文でさえ,構文解析をすると以下に示すような 2 つの解釈が成立します.

  このような自然言語における曖昧さをまとめると以下のようになります.

  1. 辞書的曖昧さ

    「He is light」
       彼は軽い
       ヘリウムは軽い

  2. 構造的曖昧さ

    「That iron will make a bridge」
       あの鉄は橋になるであろう
       あの鉄のような意志で橋を作る

  3. 深層構造的曖昧さ

    「He loved a dog」
       彼はある犬をかわいがった
       彼は犬が好きだった

    「He put a hat on the table and move it」
       「it」は何か?

  また,言語は,単に単語を文法に合うように並べただけのものではありません.言語は文化そのものです.従って,その言語が使われている地域の文化を理解しない限り言語を正しく理解できません.後に述べるように,自然言語を翻訳するような場合は,このような点から生じる困難さも発生します.

  さらに,コミュニケーションは言語(文章)だけで行われるわけではありません.むしろ,動作,表情,話し方(抑揚,声の大きさ等)などによる非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)の方が,伝わる情報量は多いといわれています.様々な実験結果が報告されていますが,ノンバーバルコミュニケーションによる情報伝達の割合は 85 ~ 95 %であると言われています.現在,インターネットを介したコミュニケーションのほとんどが言語(文章)だけで行われています.メールや掲示板等におけるトラブルがこの点に原因する場合も少なくありません.

  このように,ノンバーバルコミュニケーションや言葉と文化の関係など,コミュニケーションの本質を十分理解していないと,IT が提供する多様なコミュニケーション方法が,かえってコミュニケーションを阻害することになりかねません.また,情報学自体も,常にそれを念頭に置いておかなければなりません.ここで,簡単な例について考えてみます.

  まず,「雲はスポンジのようだ」と言ったとき,その理由を考えてみてください.その後,以下に示す文章を読んでみて下さい.

 Young Children tend to produce and select attributional interpretations on nonliteral comparisons. For example, given comparison, "A cloud is like a sponge", 5-year-olds produce interpretations like, "Both are round and fluffy". Adults produce relational interpretations: for example, "Both can hold water for some time and then later give it back". (D.Gentner, C.Toupin. Systematicity and Surface Similarity in the Development of Analogy, Cognitive Science, 10, 277-300 (1986))

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